糖尿病は珍しくない病気
糖尿病は、人でよく知られている病気で、生活習慣病の一つです。
実は、人と同様に特に猫では珍しい病気ではなく近年増加傾向にあります。
糖尿病とは?
糖尿病を一言でいうと、膵臓から出る「インスリン」というホルモンの分泌量が減ったり、うまく作用しなくなったりすることにより、体が血液中の糖を取り込めなくなり、血糖値が高くなる病気です。
人も猫も、体の中に食べ物が入ると、血液中の糖(血糖値)が高くなるため、インスリンと呼ばれるホルモンが膵臓から分泌されます。
糖は、脳をはじめとする、各種の臓器の働きに必要なエネルギー源です。
通常、このインスリンというホルモンの働きで、血液中の糖は肝臓や筋肉など体に取り込まれます。
その結果、血糖値が下がります。
しかし、糖尿病になると、インスリンが膵臓から十分に分泌されなくため、
体を動かすエネルギー源である糖を細胞内に取り込むことができなくなります。
そのため、血液中の糖の量があがったまま(高血糖)の状態になります。
糖が血液中に多く残った状態になると、尿にも糖が含まれるようになります。
また、高血糖状態が続くと、全身の細胞に必要なエネルギーの供給がうまくできず、そのため、様々な臓器に障害が起こります。
猫の糖尿病のタイプ
猫の糖尿病には、2タイプあります。
糖尿病Ⅰ型
膵臓から分泌されるインスリン量の絶対的な不足が原因とされるものです。
犬に多いタイプです。
糖尿病Ⅱ型
食べすぎや運動不足といった、生活習慣が原因とされるものです。
体がうまくインスリンに反応できなくなってしまう状態のもので、猫に比較的多いタイプです。
猫の糖尿病の原因
10歳以上の高齢猫、肥満な猫は糖尿病になりやすいとされていることから、老化に伴った内分泌機能の低下や運動量の不足が発症のリスクを上げると言われています。
しかし、原因不明のことが多く、いくつかの要因が重なって発症すると考えられています。
要因としては、肥満、不適切な食事、長期間のストレス、膵臓の病気、薬の影響、遺伝的疾患、自己免疫疾患などが挙げられます。
稀に、若い猫にも発症することもあります(若齢性糖尿病)。
肥満
理想体重の約4倍になると、糖尿病になりやすいといわれています。
肥満状態にあると、膵臓からインスリンが分泌されていても、その作用効果が弱くなるため、高血糖状態が続いてしまいます。
その結果、糖尿病へ移行していきます。
膵炎など膵臓の病気
炎症によって膵臓の組織が破壊され、インスリンが作れなくなって糖尿病を発症します。
薬の影響
ステロイドの長期間使用などによって発症します(医原性糖尿病)。
ストレス
興奮したり、怖がったりなどのストレスがかかると、糖を作るホルモンの代謝が活発になり、血糖値が上昇します。
また、猫は、上昇した血糖値を下げる能力が劣っている動物ですので、一時的なストレスには、ある程度対応できますが、長期間のストレスは高血糖状態の持続を招いてしまいます。
長くなってしまいましたが、人も動物も同じように健康な生活習慣が大切だということがなんとなく伝わりましたでしょうか。
糖尿病の症状
多飲多尿
水を飲む量が増えて、おしっこの量が多くなります(多飲多尿)。
体で利用できない血液中の余分な糖を尿として排出するため、多くの水分を必要とします。
その結果、たくさんおしっこをするようになります。
また、多くのおしっこをすることで、体は脱水状態になり、喉が渇いている状態に陥ります。
その結果、体の失われた水分を補うために、水をたくさん飲むようになります。
食欲増進/体重減少、食欲が殆どなくなる。
たくさん食べているのにもかわらず、体重の減少がみられます。
エネルギー源である糖を細胞内に取り込めないため、体に栄養が行き渡らないからです。
そのため、エネルギー要求が上がり、食欲が増します。
それでも、体は栄養不足状態が続くため、体重が減少してしまいます。
さらに、糖尿病の病態が進行すると、逆に、食欲不振になることもあります。
さらに糖尿病が悪化してくると…
食欲廃絶(全くなくなる)、嘔吐、下痢、痩せてくる、元気がない、毛艶が悪くなる、ふらつき、目が白濁しているなど見た目からもわかる症状が現れます。
下痢や嘔吐
糖尿病の影響で、血液中にケトン体という物質が増え、下痢や嘔吐を引き起こすことがあります。
特徴的な歩行の仕方
かかとを付けて、ベタベタと歩く歩き方をすることがあります(踵様跛行)。
重度な高血糖が続くと、末梢神経機能に障害が生じ、普通は地面につかないはずのかかとを付けて歩くようになります。
多くの場合は、血糖値が安定化すれば、症状は消失します。
白内障
糖尿病の病態が進行すると白内障を引き起こすことがあります。特に犬に多くみとめられます。
ケトアシドーシス
糖を吸収できない結果、体の脂肪や筋肉が分解されて起こる症状です。一番怖い話なので詳細は下記に。
ケトアシドーシスとは?
ケトン体が増えた結果、体がアシドーシス状態(酸性に傾く)になった状態を言います。
糖尿病に陥ると、エネルギー源として、糖が利用できなくなるため、その代わりに体の脂肪や筋肉からエネルギーを獲得しようとします。
その過程で、肝臓からケトン体という毒性物質が体内で合成されてしまいます。
このケトン体が増えて溜まっていくと、食欲の低下や嘔吐などの症状がみられ、重度になると意識障害を併発し、虚脱した状態になります。
最後にはショック状態になり死に至る場合もあります。
糖尿病の中でも、最も注意しなければならない重篤な病態で、集中治療が必要な状況となります。
猫の糖尿病の治療
血糖値をコントロールすることが最も重要となります。
高血糖状態は、血液中の糖を体の細胞に取り込む役割のインスリンが不足している状態です。
よって、外部からインスリンを補充して、エネルギーの吸収を助けてあげるのが主な治療となります。
インスリン注射
体内に糖を取り込ませ、血糖値を安定させる目的で投与します。
基本的には1日2回食後の高血糖状態の時に接種を行います。
長期的な管理を必要としますので、飼い主さんが自宅で注射することになります。
また、猫の場合、通院によるストレスや緊張で、血糖値が上がることが多いので、リラックスできる自宅での注射がいいでしょう。
飼い主さんにとっては、慣れない作業で、不安もあるでしょう。
しかし、動物病院にサポートしてもらいながら、怖がらずに取り組んでください。
糖尿病は、完治は難しいと言われていますが、食事で血糖値のコントロールができれば、インスリンの注射を止めることができる状態まで回復することもあります。
注意点としては、インスリン治療中、インスリンが過度に効きすぎて、低血糖に陥る場合があります。
低血糖が重度の場合は、痙攣を起こしたり、急に力が抜けたようになったりします。
この場合、ハチミツや糖シロップをなめさせるなどの応急処置が必要となります。
自宅でのインスリン治療中は、低血糖の事態も想定しておくことが大切です。
食事療法(糖質を制限した食事)
普段の食事を糖質の少ない、高タンパク、低炭水化物の療法食に切り替え、糖の吸収をコントロールし、血糖値の上昇を緩やかにします。
肥満傾向にある場合は、さらに低脂肪のものを与えます。
この食事療法だけで回復することもありますが、糖尿病が慢性化し、症状が持続する場合は、インスリンの投与と食事療法の併用が必要になります。
治療の効果を見極める重要ポイント
症状の改善
元気食欲の安定化、体重の安定化、多飲多尿の消失など。
血糖値の長期的安定化
正常範囲を少しオーバーしていても、持続的に安定している。
血糖値とフルクトサミンという数値で判断されます。
糖尿病の検査について、「血糖値を測ればよいのでは」と思われるかもしれません。
血糖値は実は結構敏感で、ストレスなどでも大きく左右されます。
フルクトサミンは、過去2~3週間の血糖値の平均的な動きを見ることができるため、併せて確認することでインスリンの効果など治療実績をより正確に確認できます。
猫の糖尿病の治療費
費用は体格やホルモン製剤の種類や量、動物病院の価格設定により異なり、全国共通で定まっているわけではありません。
毎日のインスリン注射、療法食や定期的な血糖値検査や血液検査などが主な費用になり、やはりそこそこかかってしまいますが早期に発見、改善できれば費用を抑えることが可能です。
ケトアシドーシスなどで入院となれば入院費、治療費など高額になる可能性はあります。
アニコムさんの調査では、糖尿猫の平均的な治療費は、年13回ほど病院に通い、合計32万円程度とのことです。
上記費用は入院等も含んでいるでしょうから、当院では実際そこまで掛かるケースは少ないかと存じます。
猫の糖尿病の予防
肥満にならないようにしましょう。
糖尿病に限ったことではないですが、まずは太りすぎに気を付けることが重要です。
毎日適度な運動をさせましょう。
食事の回数を分けましょう。
1度に大量に食べると、血糖値が急激に上がってしまいます。
本来、猫は、ごはんを1度に少量ずつ、何度も食べて空腹を満たす動物です。
食事の回数の理想は、1日4-6回に分けて与えた方がいいでしょう。
回数が少ないと空腹時間が長くなり、十分な量の食事を与えても空腹感を感じてしまいます。
食事を少量ずつ、数回に分けて食べていれば、常に小腹がみたされ満足感が得られますので、食べ過ぎることもありません。
水分をしっかり摂取させましょう。
猫はあまり水を飲まない動物です。
糖尿病の予防に限ったことではありませんが、水分摂取に気を配ることは大切です。
飲み水はこまめに取り換えて、常に新鮮なものを用意しましょう。
多く水分を含んでいるウェットフードにするのもいいでしょう。
定期的に健康診断を受けましょう。
7歳を超えたら半年に1回程度を目安に血液検査、尿検査をすることをおすすめします。
猫の糖尿病とフード
猫はタンパク質を主なエネルギー源としている肉食動物です。
炭水化物もエネルギー源にできる雑食動物の犬や人とは、糖の代謝が異なります。
つまり、猫が炭水化物の多い食事を食べると、食後の血糖値が上がりやすく、また食前の血糖値にまで、なかなか下げることができません。
よって、炭水化物が少なめの食事の方が、血糖値が安定しやすいです。
また、脂肪を多い食事を摂ると肥満に繋がります。
最後に
猫の糖尿病は、比較的、特徴的な症状を呈しますので、飼い主さんが早い段階で気づいてあげることが重要です。
そのため、日頃から、一日の飲み水や尿のおおよその量を把握しておきましょう。
また、もともと肥満気味の猫の場合は、痩せていることに気付きにくいので、定期的な体重チェックをしましょう。
最近では水のお皿に目盛りがついているものもありますし、シャープさんのペットケアモニターはトイレで尿量も体重も把握できるようです。活用してみるのもよいかもしれません。
仮に、糖尿病を患ったとしても、「適切な治療コントロールと生活管理」ができれば、長期的に質のよい生活を送ることが可能です。
また、自宅での管理が重要となるため、飼い主さんの十分なサポートが必要となります。
糖尿病は大変、恐ろしい病気ですが、このコラムが糖尿病と診断された猫の飼い主さんへの理解と手助けになればと思います。
早期に発見できれば、生活の質を大きく損なう事なく治療ができる可能性が高まります。
気になることがあれば、お気軽に当院(06-6963-5115)までご相談ください。
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